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日向萌×田中励 デュオリサイタル vol.1

Moe Hinata & Rei Tanaka  Duo Recital

– フルートとギターのヒューマニズム –

 

 

[東京公演]

2022年9月17日(土)19時開演 カルラホール

 

M. ラヴェル / 亡き王女のためのパヴァーヌ (7’)

Maurice Ravel / Pavane pour une Infante Défunte

F. シューベルト / アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821 (21’)

Franz Schubert / Arpeggione Sonata in a minor D.821

I Allegro moderato

II Adagio
III Allegretto

 

Pause (15’)

 

 

A. C. ジョビン / フェリシダージ(ギター・ソロ) (4’)

Antonio Carlos Jobim / A Felicidade

F. ドップラー / ハンガリー田園幻想曲 (11’)

Franz Doppler / Fantaisie Pastorale Hongroise

 

A. ピアソラ / タンゴの歴史 (20’)

Astor Piazzolla / Histoire du Tango

 

I ボルデル - Bordel 1900
II カフェ - Café 1930
III ナイトクラブ - Nightclub 1960
IV 現代のコンサート - Concert dʼaujourdʼhui

[横浜公演]

2022年9月19日(月/祝)16時開演 アウローラミュージックサロン

 

M. ラヴェル / 亡き王女のためのパヴァーヌ (7’)

Maurice Ravel / Pavane pour une Infante Défunte

F. ドップラー / ハンガリー田園幻想曲 (11’)

Franz Doppler / Fantaisie Pastorale Hongroise

L. v. ベートーヴェン / アンダンテと変奏 WoO 44b (10’)

Ludwig van Beethoven / Andante and Variation WoO 44b

 

Pause (15’)

 

 

A. C. ジョビン / フェリシダージ(ギター・ソロ) (4’)

Antonio Carlos Jobim / A Felicidade

A. ピアソラ / オブリビオン (5’) 

Astor Piazzolla / Oblivion

A. ピアソラ / タンティ・アンニ・プリマ (5’) 

Astor Piazzolla / Tanti Anni Prima

A. ピアソラ / タンゴの歴史 (20’)

Astor Piazzolla / Histoire du Tango

 

I ボルデル - Bordel 1900
II カフェ - Café 1930
III ナイトクラブ - Nightclub 1960
IV 現代のコンサート - Concert dʼaujourdʼhui

 

 

Program Note

 

 

亡き王女のためのパヴァーヌは、フランスの作曲家モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel, 1875-1937)がパリ音楽院在学中の 1899 年にピアノ曲として作曲したもので、 1910 年にはオーケストラ版にも編曲された。タイトルは弔いの意ではなく、「昔、小さな王女がスペインの宮廷で踊ったかもしれないパヴァーヌの喚起」であるとさ れている。パヴァーヌは、16 世紀のイタリアで生まれた、ゆったりとしたテンポの 宮廷舞踊である。セレモニーの最初にエレガントなドレスとともに披露され、あとにはより活気のある踊りが続いた。抑制の効いたシンプルなメロディと伴奏からな るこの曲は、ラヴェルがこの頃探求し始めていた印象派のエスプリとは皮肉にもまったく対照的であるものの、出版直後から絶大な人気を博した。

アルペジオーネとは、1823年オーストリアを起源とするギターとチェロの中間のような6弦の楽器である。ウィーンの作曲家フランツ・シューベルト(Franz Schubert, 1797-1828)によりアルペジオーネ・ソナタイ短調が書かれたのは、この楽器が発明 された直後の1824年だが、出版に至ったのはシューベルトの死後からさらに長い時 を経た 1871 年である。すでにアルペジオーネという楽器は忘れ去られており、以後主にチェロやヴィオラの編曲で演奏されている。第1楽章冒頭の印象的で憂いに満 ちたテーマからは、シューベルトの卓越した旋律のセンスがうかがえる。それに続 く躍動的なパッセージとの対比も見事である。緩徐楽章である第2楽章は、アーチのように描かれた非常に長いフレーズから成り、単純でありながら美しい和声の色 彩が際立つ。短いカデンツァを経てそのまま第3楽章の牧歌的な主題へと繋がり、 ハンガリーの民俗音楽から着想を得たと思われる第2テーマ、明朗快活なホ長調のパッセージなどがロンド形式で展開される。シューベルトは、わずか31年の生涯の間に、歌曲をはじめピアノ曲や室内楽曲、交響曲など多岐にわたる作品を1000曲以上残した。

フランツ・ドップラー(Franz Doppler, 1821-1883)は、オーストリア帝国・レンベルク(現ウクライナ・リヴィウ)で生まれ、オーボエ奏者の父からフルートの手ほどき を受ける。4歳下の弟カール・ドップラーとともにヴィルトーゾのフルート・デュオ を演奏し、ヨーロッパ各地で活躍した。ハンガリー田園幻想曲は、元々は2本のフルートとピアノのために書かれ、のちにフルートとピアノのために編曲された。ハンガリーの民謡をモチーフとしており、ジプシーを想起させるロマンチックで夢想 的な旋律が続く。曲が進むにつれテンポアップし、最終部はハンガリーの舞曲のよ うになっている。今回はピアノパートをギターで演奏するが、より民俗的な要素が引き立つように思われる。

マンドリンと鍵盤楽器のためのアンダンテと変奏は、ドイツの作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven, 1770-1827)が 25 歳の時にボヘミア(現チェコ)の都プラハを訪れた際に、歌手・マンドリン奏者である19歳の伯爵令嬢ヨゼフィーネの為に贈った4つのマンドリン作品の中の一つである。可愛らしい主題と、それに対する6つの変奏で曲が構成されており、その調和性やユーモアに満ちたアイデアなどは、青年ベートーヴェンが既に並外れた才能を開花させていた事を十分に示している。変奏曲はベートーヴェンが最も得意とし、生涯に渡って創作を続けた音楽ジャンルの一つである。ベートーヴェンといえば「運命」「第九」「皇帝」などの超大作が名高く演奏される機会が多く、荒々しく情熱的なイメージがあるが、小品においても珠玉の逸品が数多く残されている。今日は19歳の少女ヨゼフィーネに見せた彼の愛情溢れる一面をお楽しみ頂きたい。

 

 

ブラジルの国民的作曲家・演奏家・詩人であるアントニオ・カルロス・ジョビン (Antonio Carlos Jobim, 1927-1994)は、ボサノヴァ音楽の創始者の一人として知られている。ボサノヴァとは、1950-60年代に発展したブラジルの音楽ジャンルで、主にサンバ、ショーロ、ジャズなどを融合させたスタイルである。「ボサノヴァ」という言葉は「新しいトレンド」を意味する。今回演奏するフェリシダージ(副題:悲 しみよさようなら)は、1959年カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いたフランスの 恋愛映画「黒いオルフェ」の主題歌として作曲されたボサノヴァ音楽で、世界中で 大ヒットしボサノヴァブームを巻き起こした。ギターソロの為の編曲は、フランスの名ギタリストのローラン・ディアンスによるものである。

「タンゴの革命児」「タンゴの破壊者」として知られるアルゼンチン出身の作曲家・バンドネオン奏者アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla, 1921-1992)は、アルゼンチンの伝統的なタンゴにクラシック、ジャズの要素を取り入れ、Tango neuvo(新しいタンゴ)という独自のスタイルを生み出した。彼の創り出した斬新で現代的な音楽 は、ジャンルを超えた世界中のミュージシャンを魅了し続け、今年没後30周年となった今でも新たなファンを増やし続けている。

1984年ピアソラはマルコ・ベオッキオ監督のイタリア映画「エンリコ四世」の音楽を担当することとなった。仮装パーティで皇帝に扮した男が、馬から転落して記憶を失い、自分を皇帝だと思い込んだまま20年の時が過ぎるという悲喜劇が描かれている。オブリビオン(忘却)は映画の挿入歌として作曲された。終始、切なさや悲しさ漂う曲調で、タンゴの源流であるゆったりしたミロンガのリズムによって進んでいく。

ピアソラの書いた最も美しい曲の一つと言えるタンティ・アンニ・プリマはイタリア語で「昔むかし」を意味する。元々は歌曲アヴェ・マリアとして書かれたが、この映画の為に編曲された。その甘美なメロディーはシンプルながらも人々の心に強く印象づく。

 

1985年ベルギーで開催された「リエージュ国際ギター音楽祭」の委嘱により、ピアソラはフルート&ギターのための大作タンゴの歴史を書き下ろした。4つの楽章を通じて、20世紀におけるタンゴの変容を辿ることができる。

第1楽章「ボルデル 1900」: ブエノスアイレスの下町で生まれた、陽気で活気に満ちた初期のタンゴが描かれている。タンゴは、ボルデル(売春宿、つまりいかがわしいお店)のお客たちが娼婦を待つ間に演奏された。
第2楽章「カフェ 1930」: カフェに場を移したタンゴは、もはや踊る為の音楽ではなくなり、ただ聴く為の旋律的で哀愁漂う音楽となった。世界大戦や世界恐慌などによる当時の不安で悲しげな様子が反映されている。

第3楽章「ナイトクラブ 1960」: この頃ピアソラが登場し、様々な革新的なタンゴを世に放った。聴衆は新たなタンゴを聴くためナイトクラブに押し寄せる。この楽章では当時の前衛タンゴが描かれている。

第4楽章「現代のコンサート」: 非常にモダンなスタイルであり、ピアソラが尊敬していたストラヴィンスキーの影響が感じられる。ここではかつてのタンゴの姿はもう無く新たな時代の「コンサート用のタンゴ」を聴くことができる。その一貫した無調的で激しいリズムの中に、狂気や混乱も感じ取れる。

1900年頃の初期のアルゼンチン・タンゴは、主に下層階級の音楽でフルートやギターなどを用いた質素なものであった。タンゴは徐々に一般市民の間で人気を得るようになる。同時に大きなステージや高級店で演奏される機会が増え、ピアノ、バンドネオン、ヴァイオリン、コントラバスを用いたオルケスタ・ティピカ(標準編成の 楽団)が一般的となった。この「タンゴの歴史」では、タンゴが変容していく姿が「原始的」な編成であるフルート&ギターで描き出されているところが最も興味深い点である。

文 / 田中励、日向萌

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