日向萌フルートリサイタル vol.1

Moe Hinata Flute Recital vol.1

 

ピアノ : 武田実里、橋本知佳

Misato Takeda & Chika Hashimoto, piano

 

2022年1月14日(金) 19時開演 仙川フィックスホール

 

 

O. メシアン / 黒つぐみ (5’)

Olivier Messiaen / Le Merle Noir

A. ペリルー / バラード (7’)

Albert Périlhou / Ballade

 

A. ピアソラ / タンゴの歴史より カフェ 1930 (7’)

Astor Piazzolla / Histoire du Tango : Café 1930

 

A. ジョリヴェ / リノスの歌 (11’)

André Jolivet / Chant de Linos

 

Pause (10’)

 

 

A. ジョリヴェ / 呪文 (アルトフルートのための) - イメージが象徴となるために (3’)

André Jolivet / Incantation - pour que l’image devienne symbole

 

C. フランク / ヴァイオリンソナタイ長調 (25’)

César Franck / Sonate pour violon et piano en La Majeur

 

Ⅰ  Allegretto ben moderato

Ⅱ  Allegro

Ⅲ  Recitativo fantasia

Ⅳ  Allegretto poco mosso

 

 

Programme Note

 

 

近代フランス作品から繰り出される音は、色彩、煌めきを帯びて小気味よく宙を漂うようです。パリを中心とした19世紀・20世紀のフランスを反映した、エスプリ豊かな作品を揃えました。激動の世を生きた作曲家たちの想いが、婉曲的なタッチで巧妙に描かれています。

 

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オルガニスト、作曲家のオリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen, 1908-1992)は生涯にわたり独自の音楽語法を極めました。綿密に法則の練られた音列や旋法、ギリシャ・東洋スタイルのリズムを伴った表現は、彼の強いカトリック信仰とも結びついています。中期〜後期にかけては、鳥の声を素材とした作品を生み出しました。黒つぐみ(1951)はその最初の作品で、メシアンが聞き取った黒つぐみの鳴き声が忠実に再現されています。幼少から鳥の鳴き声に魅了され耳を傾けていたというメシアンは、鳥類の研究にも没頭し、後に鳥類学者となります。自身もナチスの捕虜となり、収容所での生活を強いられた第二次世界大戦を経て、鳥という純粋な自然の存在に一層惹きつけられたのかもしれません。

 

アルベール・ペリルー(Albert Périlhou, 1846-1936)は、フランス各地の教会でオルガニストとして活躍した作曲家で、サン=サーンスの弟子にあたります。ヨハン=セバスチャン・バッハやルネサンス時代、グレゴリオにまで遡った過去の伝統的な音楽から着想を得た、知的で繊細な作風です。彼の残した多くのオルガン曲、声楽曲、室内楽曲、オーケストラ作品は、今日では残念ながらほとんど取り上げられることがありませんが、フルートとピアノのためのバラードは唯一広く知られています。テーマの部分は、即興曲第1番(オルガンのための3つの即興曲より)でも使用されており、教会のパイプオルガンを想像させる重厚な和声が感じられます。

 

アルゼンチンタンゴは、1870年代中頃にヨーロッパから多くの移民を受け入れたブエノスアイレスの貧困街で生まれました。世を憂う人々が売春宿に集い、一時的な気晴らしとして踊った体をこすり合わせるような踊りが始まりです。1880-1930年頃の間にアルゼンチンは急成長し、富裕層はしばしばパリやニューヨークを訪ねるようになります。フランスでは、「彼はアルゼンチン人と同じくらい金持ちだ」というフレーズが生まれるほどでした。彼らがタンゴを披露すると、たちまちヨーロッパ、アメリカ中に広まりました。アストル・ピアソラ(Astor Piazzolla, 1921-1992)は、ジャズとクラッシック音楽の要素を取り入れた新しい形のタンゴを作り上げた作曲家です。「タンゴの歴史」には、時代とともに変容していく4つのタンゴが描かれています。今回はその中からCafé 1930を取り上げます。この時期のタンゴは踊りの要素が薄れ、ゆったりとしたテンポで哀愁漂う旋律が特徴です。

 

 

パリ・モンマルトル出身のアンドレ・ジョリヴェ(André Jolivet, 1905-1974)は、音楽によってプリミティブな原動力や感情を解釈しようとしました。シェーンベルクやヴァレーズに影響された、調性の縛りから解放された自由な表現技法や慣例にとらわれない楽器構成が特徴です。リノスの歌(1944)の冒頭には「古代ギリシャの葬送の挽歌の一種で、叫びと踊りの交じる哀歌である」と書かれています。ギリシャ神話に登場するリノスは、リズムとメロディの概念を生み出した半神で、あまりに歌が上手く音楽神アポロンに殺されたという説や、竪琴の弟子であったヘラクレスを叱ったところ復讐されて殺されたという説があります。フルートによる悲嘆の旋律にピアノが不安気な和音を刻む哀歌、突如として現れる叫び、7/8拍子で執拗に繰り返されるリズムの踊りとが交錯する、非常にスケールの大きい作品です。第二次世界大戦の終末に作曲されたこのリノスの歌には、破壊されていくパリを見た自身の思いや、犠牲者への弔いの意味も込められていると捉えられます。

 

ジョリヴェは、原始的で神聖な表現にフルートを度々用いています。パリ国際植民地博覧会や北アフリカ旅行の際に触れた異国文化・原始文化から着想し、1936年にフルート・ソロのための「5つの呪文」を作曲しました。この翌年に「呪文 - イメージが象徴となるために」が書かれます。元々はヴァイオリンのG線のみで弾くように作曲されましたが、アルトフルート、フルート、オンド・マルトノ(Onde Martenot,1928年に発明された単旋律の電子鍵盤楽器)でも演奏されます。単旋律でありながら、オスティナート風に運ばれていく音からは魔術的な次元、祈りの空間が生まれます。また、作曲当時のジョリヴェは、二度の結婚と息子の誕生、母の死を経験した頃でした。この短い一曲を通して、人生の転機を迎えた彼自身を見ているようでもあります。

 

18〜19世紀の音楽の中心地はオーストリアとドイツでした。普仏戦争(1870-71)に敗れたフランスではナショナリズムが高まり、フランス音楽の発展を目的にSociété Nationale de Musique(国民音楽協会)が設立されました。オルガニスト、作曲家のセザール・フランク(César Franck, 1822-1890)もその会員の一人です。ベルギー・リエージュ出身のフランクは生涯のほとんどをパリで過ごし、1872年にフランス国籍を取得しています。晩年に作曲されたヴァイオリンソナタイ長調は、ベルギー人ヴァイオリニストのウジェーヌ・イザイに献呈されたものです。ヴァイオリン(今回はフルート)とピアノが対等に音楽的役割を担っており、全楽章を通して2つの楽器間のダイアローグが精巧に作られています。イ長調という明朗で悦びに満ちた基調であるものの、多様に転調を繰り返すなかでフランク自身のほとばしる感情や気迫、あるいは内面の繊細さや故郷ベルギーへのノスタルジーをも垣間見ることができます。

 

文 / 日向萌